象はインドで最も崇敬されている動物ですが、 象を神格化したのが歓喜天(かんぎてん)です。 歓喜天は、大聖自在歓喜天または聖天(しょうでん)などと 呼ばれます。

歓喜天 古代シヴァ神の子で、象頭人身のガネーシャ(毘那夜迦王)という粗暴で邪悪な魔神が、人々に害を及ぼしていました。そこで十一面観世音菩薩は、象頭人身の女天(ビナ-ヤカ女神)に化身してガネーシャを誘い、仏教に帰依することを誓わせた上で、和合・合体して、この神の暴悪を鎮め(調伏し)ました。以後、ガネーシャは、善神となり、歓喜天・聖天と呼ばれ、仏法の護法(守護)神となったとされます。一般に、象頭の女天と男天が抱擁している、二天一体の双身像が歓喜天と呼ばれます。

日本での歓喜天の像容には「多臂の象頭単身像」もありますが、上記の伝説に因んだ「歓喜天双身像」が最も多いとされます。この像容は、「象頭人身の特異な姿の男女二天が抱擁している双身像」です。しかし、歓喜天双身像を祀る寺社のほとんどが本尊を「秘仏」扱いにしていますので、一般の目に触れることは少ないようです。

「秘仏」としたのは、恐らく「艶ごとは秘事」との見地(禁欲的な仏教観)から、その像容(男天と女天が抱擁)に加えて、その由来説明(女天が房事で男天の暴悪を抑えた)を憚(はばか)ったからではないでしょうか。

歓喜天は、日本では、夫婦和合・縁結び・子恵みの神とされ、さらに、商売繁盛、除災招福、その他多数の現世利益の神として信仰されてきました。

101 歓喜天-六臂単身像 


歓喜天-六臂単身像

 

 

善養寺 東京都世田谷区野毛

右の写真は「歓喜天の六臂単身像」です。インドより渡来した像とのことです。学問・除災・幸運・和合の神として境内に置かれています。

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 大根と巾着

ご本尊の大聖歓喜天は秘仏とされています。境内には二股大根や巾着(きんちゃく)の図が多数見られます。

 

待乳山聖天(まつちやましょうでん)・待乳山本龍院 東京都台東区浅草7-4-1

この社の縁起によると、「待乳山(まつちやま)は、推古3年に浅草寺観世音出現の前兆として一夜のうちに隆起して金龍が舞い降りた霊山。推古9年夏の大旱魃のとき、十一面観世音が大聖尊歓喜天に化身してこの山に降りて人々を救ったため、聖天さまとして祀った」と、されます。本尊は秘仏です。 境内のあちこちで二股大根と巾着の図が見られます。

大根と巾着IMG_2541r60r02

「境内各所に見られる、二股大根と巾着は当寺のご利益を示すもの。大根は、供えると身体強健になり、良縁成就、夫婦和合、一家和合の加護があり、巾着は、財宝を意味し商売繁盛を表す」と、冊子にあります。

しかし、私のような俗人には、ご利益だけでなく、秘仏のご本尊(歓喜天双身像)も暗示しているようにも見えます。

            :本堂正面上の二股大根と巾着 :銅製大巾着と参道階段側面の二股大根と巾着

 

 

203 参道階段側面の二股大根と巾着


 


 

 

 

成田山新勝寺 聖天堂  千葉県成田市成田1番地

成田山聖天堂

案内板によると、聖天堂は、『人法繁昌のため勧請された。当山の秘仏「大聖歓喜天」を祀り、古来より毎月初めの七日間当山の僧侶によって天尊浴油が修行されている。御堂は成田山開基1070年祭記念事業として建立〈2008年)された』と、あります。

大聖歓喜天の尊像は当所でも秘仏。歓喜天の神額が架かる聖天堂の前の左右に、二股大根の図柄の石板が多数奉納されています。これらの板絵は明らかに女性を連想させる大根図となっているように見えます。

 

        奉納石板絵   クリックで拡大

奉納石板絵A

 

奉納石板絵B

歓喜天双身像

鳥見神社 千葉県白井市富塚694   抱き合う象頭の二天

鳥見神社の歓喜天(右案内板参照)  

下の像は、象頭の男女二天が、立ったまま、象鼻を絡み合わせて、手で相手を引き寄せて抱擁しています。男天は魔神(ガネーシャ)、女天は十一面観世音菩薩の化身(ビナーヤカ女神)です。正面には、「大聖歓喜天」と文字が刻まれています。いわゆる「歓喜天双身像」で、冒頭の由来に基づく像です。明和八年(1771)に建立されたものです。歓喜天は、大聖歓喜天(聖天)と呼ばれ、男女和合・縁結び・子恵みの神とされました。             写真をクリック拡大

302 大聖歓喜天  明和八年(1771)

      大聖歓喜天 明和八年(1771)

歓喜天双身像を本尊とする寺社の殆どがご本尊を秘仏としていますが、この「鳥見神社の大聖歓喜天像」と同様に象頭の二天が抱擁している像容だと思われます。


観音寺 千葉県柏市逆井523

観音寺は真言宗豊山派の寺で正式には安楽山誓光院観音寺といいます。ぼたん寺として有名ですが、春から秋まで多種の花が楽しめます。

寺の境内に、男女が裸で抱擁している像が無造作に置かれていて、予期しない光景にハッとさせられます。像の傍らには「十一面観世音菩薩者為参詣諸人二世安楽」(十一面観音は参詣者全てに「二世(現世と来世の)安楽」をもたらす)とあります。十一面観音は歓喜天(聖天)の本地仏ですので、この像は象頭ではありませんが「歓喜天双身像」ということです。

歓喜天双身像              クリックで写真拡大
401 境内の歓喜天双身像402 境内の双体道祖神

 

 

 

   境内の双体道祖神像

 

 

 

 

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