烏団扇(からすうちわ)と 鵺(ぬゑ)

 
東京・府中市の大國魂神社 のすもも祭で頒布される烏団扇(からすうちわ)の烏(からす)は、闇夜(やみよ)の烏で姿が見えない烏です。 鵺(ぬゑ)は、夜の暗闇(くらやみ)の中で、不気味な鳴き声だけで姿の見えない妖怪で、平家物語にも載ります。 今回は、共に、闇夜の中で姿の見えない、「からす」と「ぬゑ」をとりあげてみました。また、時節柄、参考追補として、疫病除け予言獣(妖怪)の コロリ・アマビエ・くだん ・ヨゲンノトリ・神社姫、を添付しました。

Ⅰ すもも祭と烏団扇(からすうちわ)
Ⅱ 烏団扇の烏と鵺(ぬゑ)
参考 1 コレラの怪獣、コロリ(虎狼狸)
   2 新型コロナ除けの妖怪、アマビエ
   3 吉凶を予言、絵姿は厄病除けにもなる怪獣、くだん(件)
   4 ヨゲンノトリ、絵姿はコレラ除け
   5 コレラの流行を予言し絵姿はコレラ除け、神社姫

Ⅰ すもも祭と烏団扇(からすうちわ)

東京・府中市の大國魂神社では毎年7月20日にすもも祭が行われ、この日に限って烏団扇(からすうちわ)が頒布されます。

大國魂神社(おおくにたまじんじゃ) 東京都府中市宮町3-1、
祭神:大國魂大神(大国主命)、かつて武蔵の国の総社で六社宮とも言われる

Ⅰ-1 すもも祭

すもも祭」は、毎年7月20日に斎行されます。境内は参拝者で終日賑わい、参道には李子(すもも)を売る店など多数の露天商が軒を連ね、夏の風物詩となっています。

李子(すもも)市の起源:奥州安倍氏平定(前九年の役1051~1062)の途次、源頼義・義家父子は、大國魂神社に戦勝祈願をし、戦に勝ち凱旋の帰途、戦勝の御礼詣りをしました。その際に、供物(祭神饌)の一つとして李子(すもも)を供えたと伝わります。この故事に因んで境内にすもも市がたつようになったのが、この祭りの由来です。(大国魂神社HPより)

李子(すもも)や桃は、古来より、悪魔祓い、厄除け、悪病除け、災難除けとされ、食すれば長寿をもたらすとされてきました。特に、この祭りの時期、食中毒や暑気払いに効果があるとも信じられています。

Ⅰ-2 烏団扇(からすうちわ)

烏団扇(からすうちわ)は大國魂神社で毎年7月20日に開かれる「すもも祭」で頒布されるものです。

「からす団扇で扇げ」・・・御歳神の教え

烏団扇の起源:「からす扇・からす団扇」の起源は、五穀豊穣・悪疫防除などを願うもので、その扇や団扇で扇ぐと、農作物の害虫は駆除され病気は平癒する、と信じられています。そのいわれは今から約1200年前、平城天皇の大同2年(807年)に出来た「古語拾遺」という神話にあります。内容は次のとおりです。

烏団扇 表・裏

神代の昔、大地主神が田植えをなさる時に、早乙女や田夫らを労うために牛肉をご馳走㊟した。 ところが御歳神の御子がそれをご覧になって家に帰ってそのことを御父にお告げになった。 御歳神は、これをお聞きになり非常にご立腹なされて、田に蝗(いなご)を放ち、苗の葉をことごとく 喰い枯らせてしまった。大地主神は大変に驚かれて、何か神の崇りであろうといって卜者を呼んで 占わせてみたところ、「これは御歳神の崇りであるから宜しく白猪、白馬、白鶏を献じてお詫びするのがよろしい、されば怒りも解けるであろう」とのお告げがあった。そこで、その通りにすると、お怒りが解けたばかりではなく、蝗の害を駆除する方法も、いろいろと教えて下された。 その方法の中に「烏扇をもって扇(あお)げ」とお教えなさったのである。(大国魂神社HPより) 当時、鳥以外の動物の肉を食べることは禁忌されていた。


Ⅱ 烏団扇(からすうちわ)の烏と鵺(ぬゑ)

すもも祭の烏団扇の烏は闇夜に紛れて姿が見えない烏で、鵺(ぬゑ)は夜の暗闇(くらやみ)の中で不気味な声で鳴く得体の知れない妖怪です。

Ⅱ-1 烏団扇(からすうちわ)

からす団扇は、毎年7月20日に行われる府中市の大國魂神社の「すもも祭」のときだけ頒布されるものです。「からす扇・からす団扇」の起源は、五穀豊穣・悪疫防除の意味からで、その扇や団扇で扇ぐと害虫は駆除され病気は平癒する、とされます。

① からす団扇

カラス団扇 表 闇夜の烏

授与されるからす団扇は、ご覧の通り、「闇夜の烏」の図柄のものです。黒い烏は闇夜の中では闇に紛れてその姿は勿論存在すらわかりません。なぜこのような図柄なのか説明はありません。「闇夜に烏(からす)、雪に鷺(さぎ)」ということわざもあります。まわりとよく似ていて見分けがつかないことのたとえです。また、烏は、通常、夜はねぐらにいて鳴いたり飛んだりしません。この「闇夜の烏」の由縁のヒントは団扇の裏面の図にあると思えます。

② くらやみ祭

烏団扇 裏 六所宮


からす団扇の裏面には大國魂神社の別名でもある「六所宮」が闇夜の中に描かれています。武蔵国の国府で行われた国府祭を起源とし、毎年5月5日に行われてきたこの社の例大祭「くらやみ祭」を連想させます。当夜、地元の2神とかつての武蔵の国の6神(六所宮の神)の計8神がそれぞれの神輿(みこし)にのられて、闇夜の中、御旅所へご神幸され、一夜をすごされます。このご神幸は、女神を訪ねるもので「歌垣」の意味合いを帯びたものとされます。これらの神々の姿が人目に触れることのないように明りを消して暗闇のなかで祭は行われてきたのです。からす団扇の表面の烏も、神烏(しんう)として人目に触れないようにと「闇夜の烏」として描かれたものと思われます。

参考:秩父神社で毎年12月13日深夜に行われる「秩父夜祭の御旅所へのご神幸」も、 御旅所 で、秩父神社の女神(妙見菩薩)が武甲山(妙見山)の男神(蔵王権現)と年に一度の逢瀬を過ごされるもの、と伝わります。




Ⅱ-2 鵺(ぬえ)

① 鵺(ぬゑ)とは? 鳴き声だけで姿の知れない妖怪

「あの島には悪霊がとりついている、鵺(ぬえ)の鳴く夜に気をつけろ」は、横溝正史作 名探偵金田一耕助シリーズ「悪霊島」(映画化もされた)の冒頭部分に出て来る、キャッチフレーズともいえる不気味な一文です。鵺(ぬえ)とは何でしょうか。

ぬゑ(鵺)とは、 古来、夜の暗闇の中で、怪しい不気味な声で鳴き、姿も見えずに飛び回る、得体のしれない妖怪(魔物・怪物)がいて、人々はその鳴き声に不安感や不吉感を掻き立てられて怖れ怯えていました。やがて、その妖怪の名に、夜間「ヒョー・ヒョー」と鳴き、妖怪と鳴き声が似ているとされるトラツグミの別称、または、他のフクロウ、ミミズクなども含めた夜鳴く鳥の総称とされる、「鵺・鵼・ぬゑ」の名が付けられました。そして、平家物語などに載って知られ、現在では「ぬゑ・鵺」という語はむしろ、この妖怪を指す語とされるようになっています。

② 鵺(ぬゑ)の姿が「平家物語」に書かれる

鵺(ぬゑ)は、当初姿は見えず、不気味な声で鳴く妖怪とされていました。その鵺の姿が書かれたのは、鎌倉時代に成立した「平家物語 巻第四」に載る「源三位頼政の鵺退治」です。(なお後に、この源頼政の鵺退治は世阿弥の能「鵺」の題材ともされました)

 「平家物語 巻第四」鵺(ぬえ): 近衛天皇の在位中の仁平年間(1151~1153)の頃、毎夜、丑の刻(午前二時頃)になると、東三条の森の方から黒雲の一群がやって来ては清涼殿の上を覆い、天皇を怯え恐れさせた。高僧貴僧のお祓いも効果がない。そこで源頼政が選ばれて勅命でその変化(へんげ・怪しい物)退治を命じられた。頼政が丑の刻に待ち構えているとやってきた黒雲の中に怪しい物の姿があった。家伝の弓に矢をつがえ引き絞って黒雲目掛けて射ると、祈念どおり命中した。連れていた郎等(従者)の「井(猪)の早太」が落ちてくる怪物を取り押さえ九太刀刺して殺した。御所の人々が松明を灯してこれを確認すると、頭は猿、体は狸、尾は蛇、手足は虎の姿の怪物で、鳴き声は鵺に似ていた。恐ろしいという言葉では言い尽くせないものだった。天皇はその武勇に感心なされて、師子王という御剣を頼政に下された。

③ 鵺(ぬゑ)の姿が浮世絵になる

上掲の「平家物語 巻第四」鵺(ぬえ)の「源三位頼政の鵺退治」が画題とされ、ぬゑ(鵺)の姿が視覚的に表現されたのがこの浮世絵です。嘉永5年(1852)に発刊された、歌川国芳作「木曽街道六十九次」内の終着地京都の「京都 鵺 大尾」の一枚です。画面一杯に、頭は猿、体は狸、尾は蛇、手足は虎の姿をした鵺(ぬえ)が描かれています。なお、タイトルの中の「大尾」は「鵺の尾」にかけて「シリーズ最後の終着地、京都」の画であることも示しています。

ぬゑ 歌川国芳「木曽街道六十九次之内」「京都 鵺 大尾」

④ 鵼(ぬゑ)は、なぜ猿蛇虎狸の合成獣とされたのか
   その姿を十二支の方位図に配置してみると・・・

鎌倉時代に書かれた「平家物語」に、正体不明とされていた「鵺の姿」が書かれ、その像容は、頭は猿(申)、尾は蛇(巳)、手足は虎(寅)、体は狸(中心)の姿をし、鳴き声は鵺に似ている、とされています。これを十二支の方位図に配置してみました。

陰陽五行説や風水に基づく「四神相応の地」として開かれ、格子状に整然と整備された平安京を、東西南北の十字としたとき、これに対し、30度左に斜めにずらした十字上の方位に申巳寅亥があります。「平家物語」に書かれた鵺(ぬえ)の姿体の部分をここに配置してみますと、頭は猿なので申に、尾は蛇なので巳に、手足は虎なので寅に、体(胴体)は狸なので中心(交点)に配置できます。すなわち、この十字上の、亥を除く四つの動物(猿蛇虎狸)を一つに合体合成した姿として「鵺(ぬえ)の像容」は表現されたことになります。なお、亥は、源頼政の郎等(従者)で、頼政が射落した鵺を取り押さえ退治した「井(猪)の早太」です。また、東西南北の十字に対して斜め十字にずらした方位にしたのは、その真っ当でない不安定感から、正体不明の妖怪に、都の人々が怖れ怯えている様子を表しているのかもしれません。

⑤ 結局 鵺の姿は得体の知れないまま

結局、鵺(ぬえ)の姿は得体の知れないままです。平家物語の作者も、もともと「正体不明な鵺の姿」を書く(表現する)のにあたって、あれこれ悩んだ末に、十二支の方位のうちあえて東西南北をはずした30度左斜め十字上にある、「申巳寅・交点」の動物(猿蛇虎狸)を合成して(実在しない)鵺の姿を表現(創作)し、「亥」に郎等(従者)の「井(猪)の早太」を配して、この十字を「源頼政の鵺退治」の「裏舞台」としたものと思われます。源平に関する各種資料を参照・検討の結果でしょうが、その奇抜な発想には驚かされます。

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参考・追補 疫病と疫病除け予言獣(妖怪)

コロリ・アマビエ・くだん・ヨゲンノトリ・神社姫

1 コレラの怪獣、コロリ(虎狼貍)

今日、新型コロナウィルスの大流行で、非常事態宣言も出され、人々は密閉、密集、密接を避けて家に閉じ籠って外出を自粛していますが、幕末から明治にかけては、コレラの大流行がありました。特に、明治12年(1879)の患者は162,637人(うち105,786人死亡)、明治19年(1886)の患者は155,923人(うち108,405人死亡)にのぼりました。

コレラは、病状の進行が速く、一日千里を走るとされる虎のイメージとかさなって、「虎列刺」「虎 列拉」などと記され、市中では、感染すると2~3日で「ころり」と死ぬことから、「コロリ」ともよばれて「虎狼狸」(コロリ:トラ・オオカミ・タヌキ)と書かれました。また、秩父・武蔵地方のお犬さま信仰では、眷属のオオカミは憑き物をを落とすとされ、その骨を削って飲めばコレラの特効薬になるとされました。

錦絵 「虎列刺退治」

「虎列刺退治」木村竹次郎画、明治19年8月17日刊、(東京都公文書館蔵)

上図(錦絵)には、虎列刺(コレラ)の治療薬として、感染死亡者を解剖して採取した病原菌で実験したところ、「石炭酸」は効果がなく、意外にも「梅酸(うめず)」の効果か抜群だったとして、「梅酢」を推奨する文言が入れられています。

さらに、「衛生隊」「予防隊」「石炭酸」「宝丹」の攻撃の効もなく、人々を足下に押え込む凶暴な怪獣が大きく描かれています。コレラの病原に見立てた怪獣、「コロリ・虎狼狸、コ・ロ・リ」です。頭は虎、胴は狼、下半身は狸(狸の睾丸)から成る「合成怪獣」です。

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2 新型コロナ除けの妖怪、アマビエ

新型コロナウィルスの感染拡大で、突如、SNSなどで、妖怪「アマビエ」が話題になっています。「アマビエ」は、豊作や疫病など吉凶を予言し、その絵姿は疫病除けになるとされる妖怪で、厚生労働省の新型コロナ感染防止啓発キャラクターともされています。アマビエは、その姿を写し描くことも流行し、さまざまなグッズなどにもされています。ネット上では、水木しげるの描いたアマビエの原画が水木プロによって公開され、調布市ではテレビ会議の背景用などに配布しています。また、市原市にはアマビエの木像も置かれました。「アマビエ」ブームの理由の一つは、妖怪なのにアマビエの姿がゆるきゃら系で、外出自粛の中で「写し絵」を描く作業にあるのかもしれません。

瓦版のアマビエ

アマビエについての原資料は、下掲の京都大学に残る瓦版だけのようです。意訳してみました。

肥後国(熊本県)の海中に毎夜光るものが現れるというので地元の役人が行ってみると、図のような者が現れ、「私は海の中に住むアマビエというものです。当年より六ヶ年は豊作が続くが、病も流行するのでそのときは私の姿を描き写した絵を人々に見せるとよい。」と告げて海中に戻っていった。この瓦版は、以上のいきさつの写しを地元の役人が江戸に知らせた際の写しである。弘化三年(1846)四月中旬、 アマビエの姿のスケッチを添付。

京都大学貴重資料デジタルアーカイブ 「新聞文庫・絵」 84コマ目「肥後国海中の怪(アマビエの図)」

この瓦版に書かれたアマビエの姿は、、波間に立つ長髪の人魚のようですが、口は鳥の嘴(くちばし)で、胴体は魚の鱗(うろこ)のようなもので覆われ、三本の足をもっています。

アマビエ像:【左】上掲の原像、【中】ゲゲゲの鬼太郎第5作内 水木しげる画 彩色版(水木プロ)、【右】千葉県市原市 チェーンソウ木彫り(NHK newsweb)

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3 吉凶を予言、絵姿は厄病除けにもなる怪獣、くだん

「くだん」は、新型コロナウイルスの蔓延で一躍有名になった、前項の妖怪「アマビエ」と同様に、豊作や疫病など吉凶を予言し、その絵姿は厄病除け、招福にもなるとされる怪獣です。アマビエよりずっとメジャーな予言獣で、江戸時代から現代まで目撃例も多く出現場所も全国各地にわたるようです。

「くだん」は、古くから日本各地で知られる怪獣(妖怪)です。「くだん」は、件(人偏に牛)と書きますが、文字の通り、半人半牛(顔は人間で体は牛)の姿をしているといいます。幕末頃に最も広まった伝承では、「くだん」は、牛から生まれ、人間の言葉を話すとされ、生まれて数日で死ぬが、その間に作物の豊凶や流行病、旱魃、戦争など重大なことに関して様々な予言をするとされます。しかも、それらの予言は間違いなく起こる(的中する)といいます。また、件(くだん)の絵姿は厄病除・招福の護符になるとされています。(以上wiki参照・引用)

倉橋山の件(くだん)を描いた天保7年の瓦版

下図は、天保七年(1836)に件(くだん)が丹後国倉橋山に現れた際の瓦版です。

要旨:大豊作を知らす件(くだん)という獣(けもの)なり。 天保七年(1836)十二月、丹後国(現京都府北部)の倉橋山の山中に、図のように、体は牛、顔は人に似た件(くだん)という獣が現れた。これ以前にも、宝永二年(1705)の十二月に件(くだん)が現れ、その翌年より豊作が続いたと古書に載っている。件という文字は人偏(にんべん)に牛と書いて件(くだん)と読む。件(くだん)は(予言したことが必ずその通り起こる)正直な(嘘偽りの無い)獣なので、證文(しょうもん)の終わりに「如件(くだんのごとし)」と書くようになった。
● なお、この絵図を貼っておけば、家内繁盛して厄病除けになり、一切の禍(わざわい)をまぬがれることができ、大豊年となる。まことに目出度い獣である。

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4 ヨゲンノトリ、絵姿はコレラ除け

新型コロナウイルスの流行で一躍有名になった妖怪「アマビエ」(上述)に続いて、「ヨゲンノトリ」が現れ、この怪鳥も話題になっています。山梨県立博物館が、所蔵する資料の中から「ヨゲンノトリ」と名付けてHPやSNSで公開、提供しています。一つの体に黒白二つの頭をもつ怪鳥、予言の鳥です。「来年コレラの流行で9割の人が死ぬ。だが、自分たちの絵姿を朝夕拝めば難を逃れることが出来よう」と予言したといいます。(以下、山梨博物館の記事を引用)

市川村(現山梨市)の名主、喜左衛門(きざえもん)が記した「暴瀉病流行日記(ぼうしゃびょうりゅうこうにっき)」の安政5年(1858)8月初頭の記事に、頭が2つある不思議な鳥の絵が描かれています。そこにつけられている説明は、以下の通りです。(暴瀉病 =コレラ)

現代語訳:図のような鳥が、去年の12月に加賀国(現在の石川県)に現れて言うことには、「来年の8月・9月のころ、世の中の人が9割方死ぬという難が起こる。それについて、我らの姿を朝夕に仰ぎ、信心するものは必ずその難を逃れることができるであろう」
これは熊野七社大権現のすぐれた武徳をあらわす鳥であると言われている。(予言の通り)今年の8月・9月に至り、多くの人が死んだ。まさしく神の力、不思議なお告げである。


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5 コレラの流行を予言し、絵姿はコレラ除け、神社姫

神社姫もまた人魚のような姿の予言獣(妖怪)で、コレラの流行を予言し「自分の写し絵に祈ればコレラ除けになる」と、告げたといいます。江戸時代中期の医師・加藤曳尾庵の筆記『我衣』に載るとのことです。(以下、wiki参照・引用)

文政2年(1819年)4月18日、肥前国(現在の長崎・佐賀県)のある浜辺に、全長が2丈(約6メートル)もあり、2本の角を生やし女の顔を持つ、魚のようなものが現れた。その姿の目撃者に「我は龍宮の使者、神社姫である。向こう7年は豊作だが、その後にコロリという病(コレラのこと)が流行る。しかし我の写し絵を見ればその難を逃れることができ、さらに長寿を得るだろう」と語ったという。

『我衣』にある「神社姫」の挿絵(wiki

他にも多数の予言獣や厄病除けになる妖怪がいます

昨今の新型コロナの流行で、写し絵(絵姿)が疫病除けになる予言獣(妖怪)が評判になっています。『妖怪が現れ、豊作や疫病の流行を予言し、自分の写し絵を拝めば疫病除けや招福になる、と告げる』、このような文言の記事を話題や画題とする瓦版、摺物、錦絵などが、江戸時代末期から、「愚人を騙すもの」として取り締まりの対象とされるようになった明治初期にかけて、少なからず出回ったようです。この間には何度もコレラや赤痢などの疫病の大流行があり、多数の人が亡くなっています。人々は、為す術もなく、身に降りかかる不安や恐怖のあまり、藁(わら)にでもすがるように妖怪の絵姿に祈ったのでしょう。そして、このような心情に取り入って儲けを狙った版元も多く、全国に沢山の予言獣(妖怪)が存在します。例えば、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)の「歴博」第170号「風説と怪異・妖怪-流行病と予言獣」には、当館所蔵の予言獣が絵入りで多数紹介されています。リンク)☚クリック