神仏を載せる動物たち
神仏の像を載せている動物たちがいます。いずれも、特定の神仏それぞれに決まった動物が載せています。これら神仏を載せる動物を私は神使像めぐりの視点から神仏の神使、お使い、眷属、守護神などとしてきましたが、仏像の視点からは、これらの動物は台座の一種として鳥獣座(ちょうじゅうざ)とか禽獣座(きんじゅうざ)と呼ばれています。以下の通り、獅子、象、狐、猪、馬、魚、龍、亀、孔雀、鵞鳥、牛(水牛)が神仏を載せています。
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1 獅子に乘る文殊菩薩
文殊菩薩(もんじゅぼさつ)は、智慧を象徴する仏。普賢菩薩と共に釈迦仏の脇侍ともされる。獅子に乘る姿で表される。
乗蓮寺(東京都練馬区赤塚) 長泉寺(東京都杉並区上高井戸) 喜多院(埼玉県川越市小仙波町)
増上寺(東京都港区芝公園) 大円寺(東京都目黒区下目黒) 少林寺(埼玉県大里郡寄居町末野)
2 象に乘る普賢菩薩
普賢菩薩(ふげんぼさつ)は、理知・慈悲の仏。文殊菩薩と共に釈迦仏の脇侍ともされる。白象に乘る姿で表される。
四天王寺(大阪市天王寺区四天王寺) 虚空蔵山大満寺(宮城県仙台市太白区向山 喜多院(埼玉県川越市小仙波町)
長泉寺(東京都杉並区上高井戸) 大円寺(東京都目黒区下目黒) 増上寺(東京都港区芝公園)
3 狐に乘る稲荷神
稲荷神(いなりしん)は記紀などに載る農耕・食物を司る神。伏見稲荷大社の祭神。農業の神とされたが、後には財福・出世・商業など諸産業の神。老翁や女神が手に稲穂と宝珠を持ち狐に乘る姿が多い。(神道系)
阿伎留神社(東京都あきる野市五日市) 笠間稲荷神社(茨城県笠間市笠間) 穴守稲荷神社(東京都大田区羽田)
4 狐に乘る荼吉尼天
荼吉尼天(だきにてん)は、古代インドで人の心臓や肝を食う鬼女だったが、大日如来の霊力で大黒天の眷属となった。人の死を6ヶ月前に予知できるという。天女姿で稲穂を天秤で担い、白狐に乘る。狐の縁で稲荷神とされる。インドではジャッカルに乘る。(仏教系)
境内の稲荷祠(神奈川県横浜市神奈川区東神奈川) 三州本山豊川稲荷(愛知県豊川市豊川町)
5 狐に乘る飯縄(綱)権現
飯縄(綱)権現(いづなごんげん)系は、山岳修験道を極めて不動明王の化身とされ、烏天狗のような姿で狐の背に立ち乗る。軍神・火防の神などとされる。飯綱山・戸隠地方の発祥だが現在は高尾山が最大のの霊山。秋葉山の三尺坊、大雄山の道了尊も同様の像容。これらはダキニ天の変容とも言われる。
5-1 飯綱(縄)大権現(飯綱三郎天狗)
戸隠・公明院(長野市戸隠) 戸隠神社中社(長野市戸隠) 善光寺常圓坊(長野市)
高尾山飯縄大権現 高尾山薬王院有喜寺(東京都八王子市高尾町)
高尾山修験道根本道場 ご本尊お前立 お札 掛け軸
5-2 秋葉山 秋葉三尺坊大権現
像:敷島神社(志木市本町) 百草八幡宮(日野市百草) 物井不動堂(四街道市物井)
お札:可睡斎(袋井市久能) 秋葉寺(静岡県周智郡春野町)
5-3 大雄山道了尊
大雄山最乗寺・道了尊(神奈川県南足柄市大雄町)
6 猪に乘る摩利支天
摩利支天(まりしてん)は、陽炎(かげろう)を神格化した女神で、姿は見えないが月日(時刻)に先立って進み進路の邪魔になるものや厄を取り除いて守ってくれる、とされる。軍神とされる一方、五穀の結実を豊かにする農業神ともされた。三面六臂で弓矢を持ち走駆する猪に乘る姿が多い。
五所神社(神奈川県鎌倉市材木座) 修那羅山安宮神社(長野県東筑摩郡坂井村) 霊諍山(大雲寺の裏山、長野県千曲市八幡)
徳大寺(東京都台東区上野4) 南禅寺聴松院(京都市左京区南禅寺) 禅居庵(京都市東山区大和 大路通四条下ル4丁目小松町
7 猪に乘る将軍地蔵
将(勝)軍地蔵(しょうぐんじぞう)は、京の西北(戌亥)に当たる愛宕社(愛宕山)の愛宕権現の本地仏とされれ、本来は、悪業煩悩の軍に打ち勝つ地蔵。「火防の神」、外敵や疫病の侵入を防ぐ「賽の神」、「戦勝の神」などとされた。甲冑姿で錫杖や宝珠を持ち馬に乗る姿が一般的だが、神使の猪に乘るものもある。
安立院(東京都台東区谷中) 長久寺(埼玉県坂戸市浅羽)
8 馬に乗る馬頭観音
馬頭観音(ばとうかんのん)菩薩は、六道の一つ畜生道から済度する仏とされ、特に馬の守護神とされている。交通・輸送の安全祈願や馬供養のため路傍に建立された石仏も多い。一般的な像容は、頭に馬頭を戴き三面で憤怒の形相をして2~8臂、胸元で馬口印を結んで座している。「馬頭観音」の文字碑だけのも多い。馬に乗っている像は珍しい。
妙光院馬頭観音(兵庫県神戸市中央区神仙寺通) 下図は一般的な像:青蓮寺(東京都板橋区成増)
馬乗り馬頭観音(道標の役割も): 左:千葉県市原市椎津新田 路傍 右:千葉県袖ヶ浦市代宿 路傍
9 大魚(鯉)に乗る魚籃観音
魚籃観音(ぎょらんかんのん)菩薩は、中国の唐の時代、仏法をひろめ人々を救済するために、竹籠(魚籃)に魚を入れて売り歩く行商人に身をやつしていたとされる。三十三の姿があるとされる観音さまの一姿。像容には、手に魚を入れる籠(魚籃)を持っている像と、大魚に立ち乗っている像とがある。
西光院(埼玉県川口市戸塚2) 文殊堂(宮城県仙台市青葉区八幡6)
10 龍に乗る龍頭観音
龍頭観音(りゅうずかんのん)菩薩は、龍の頭に乗る図であらわされ、これが名の由来。観音の偉大さ(威徳・功徳など)を、最高の霊獣である「龍」で象徴したもの(龍に見立てたもの)とされ、雲中で龍頭に乗る。立像と座像がある。三十三あるとされる観音の容姿の一つ。
左:文殊堂( 宮城県仙台市青葉区八幡6) 中:大恩寺( 東京都北区赤羽西6) 右:龍頭観音図-東京国立博物館蔵(デジタルコンテンツ)
11 亀に乘る妙見菩薩
妙見菩薩(みょうけんぼさつ)は、北極星や北斗七星を神格化した神で、守護神は北方を守護する玄武神とされる。玄武は亀蛇ともいわれ、首の長い亀に蛇が絡みついた想像上の霊獣だが、一般に亀が当てはめられている。下図は妙見菩薩が亀の背に座しているものだが、右は、像ではなく岩板碑に妙見菩薩の旨の文字が彫られている。
成田山新勝寺(千葉県成田市成田) 金刀比羅神社(東京都青梅市本町)(碑=妙見菩薩)
12 孔雀に乘る孔雀明王
孔雀明王(くじゃくみょうおう)は、インドの国鳥でもある孔雀を神格化した女神。、諸々の毒を取り除く神と信じられ、人々の災厄や苦痛を除き、さらには、人間の煩悩を取り祓う功徳をもつとされる。顔には慈悲の微笑をたたえ、四本の腕(四臂)をもち、孔雀に乘った姿で表される。明王の中では唯一、孔雀明王だけが慈悲をたたえた表情(慈悲相)をしている。「仏母大孔雀明王」などとも呼ばれる。
観音寺(埼玉県飯能市山手町) 孔雀明王像(東京国立博物館蔵/デジタルコンテンツ)
13 象、鵞鳥、牛(水牛)に乘る仏
帝釈天(たいしゃくてん)を載せる象、梵天(ぼんてん)を載せる鵞鳥(がちょう)、大威徳明王(だいいとくみょうおう)を載せる牛(水牛)もあります。これらは古代インド様式の密教の仏像で、なかなか出合えません。しかし、京都の「東寺・講堂の立体曼荼羅」で、これら三基の仏像をまとめて拝見することが出来ます。
東寺講堂の立体曼荼羅 東寺(教王護国寺) 京都市南区九条町1番地 -真言宗総本山-
東寺講堂の曼荼羅(まんだら)は、通常「絵画」で平面的に表現される世界が「立体像」による立体的世界になっています。空海(弘法大師)が、密教の世界をより感得しやすくして広く知ってもらおうと発案指導したもので、仁王経曼荼羅を基に二十一体の立体仏像が配置されています。完成は、空海没後4年の承和六年(839)(平安時代)。現在の講堂は延徳三年(1491)に創建時の基壇の上に再建されたもの。下記の写真は、東寺出店運営委員会のHPの「東寺講堂・立体曼荼羅特集」から転載させていただきました。
東寺の立体曼荼羅の仏像 (左)象に乘る帝釈天 (中)鵞鳥に乘る梵天 (右)水牛に乘る大威徳明王
以上です。