生れ年の干支による守護神、一代守本尊

1 一代守本尊(いちだいまもりほんぞん)とは

人はだれも、生まれた時から死ぬまでの一生を通して守ってくださる守護神が決められています。守護神は、一代守本尊(いちだいまもりほんぞん)と呼ばれる守護仏で、生まれ年の干支・十二支で決められています。一代守本尊は、十二支(干支)守本尊ともいわれますが、津軽地方では「一代さま」、仙台周辺では「卦体神(けたいかみ)」などとも呼ばれています。このような守本尊の習俗は、江戸時代後期以降のもののようです。数ある仏様の中で自分の守本尊(守護仏)を知って、そのご本尊に祈ればご利益(ごりやく)も増すように思えます。

生まれ年の干支に基づく「一代守本尊」

北・北東・東・南東・南・南西・西・北西の八方を十二支(の方位)で表して、生まれ年の干支(十二支)に応じた、八体の守り本尊が決められています。(下図参照)。なぜ、それぞれの八方位にこれら八体の仏さまが当てはめられたか、その由来はわかりません。

文中のすべての写真はクリックで拡大写真になります

            まれ年の干支(十二支)        一代守本尊

  •    ね    (鼠)  生まれの人は 千手観音菩薩
  • 丑・寅 うしとら (牛・虎)生まれの人は 虚空蔵菩薩
  •    う    (兎)  生まれの人は 文殊観音
  • 辰・巳 たつみ  (竜・蛇)生まれの人は 普賢菩薩
  •    うま   (馬)  生まれの人は 勢至菩薩
  • 未・申 ひつじさる(羊・猿)生まれの人は 大日如来
  •    とり   (鶏)  生まれの人は 不動明王
  • 戌・亥 いぬい  (犬・猪)生まれの人は 阿弥陀如来・八幡大菩薩

 

Ⅱ 一代守本尊の八尊姿一覧

浅草寺(東京都台東区浅草二丁目)は、影向堂(ようごうどう)に生れ年(干支)ごとの守本尊八体(影向衆)を祀ります。内陣の須弥壇中央には聖観世音菩薩を祀り、その左右に千手観音、虚空蔵菩薩、文殊菩薩、普賢菩薩、勢至菩薩、大日如来、不動明王、阿弥陀如来を祀っています。このように、本堂に一代守本尊の仏像を八体まとめてお祀りしているお寺などもありますが、ここでは、図版や石像で、八尊のお姿(像容)を一覧してみました。なお、戌亥年生まれの人の守本尊は阿弥陀如来か八幡大菩薩ですが、八幡神の本地は阿弥陀如来(八幡神は阿弥陀如来の化身)です。また、守本尊にはそれぞれ縁日があります。縁日にお参りすると、ご利益も増すといわれます。

2-1 一代守本尊 「諸宗仏像図彙.4」 梶川辰二著 明治19年6月、東京国立博物館デジタルコレクション 

2-2 一代守本尊 「永代大雑書三世相伊東武左衛門 編 明治18年10月 東京国立博物館デジタルコレクション

2-3 一代守本尊 虚空蔵山大満寺「十二支八角堂」宮城県仙台市太白区向山

当寺は虚空蔵菩薩を祀る寺。虚空蔵堂とは別に、境内に「十二支八角堂」があり、生まれ年の干支(十二支)に対応した、八体の一代守本尊が祀られている。また、境内には十二支像が置かれ、各干支生まれの人が奉納名を追加記入できるようになっている。

2-4 一代守本尊 霊浄山 長野県千曲市八幡、大雲寺の裏山

「霊諍山(れいじょうざん)は明治の中頃に土俗信仰の場として開山された山。ここの石仏群の中に庶民が奉納した、一代守本尊、八尊の石仏がある。

右から左へ 上段:子-千手、丑寅-虚空蔵、卯-文殊、辰己-普賢、下段:午-勢至、未申-大日、酉-不動、戌亥-八幡(=誉田別尊)

 

Ⅲ 守本尊に奉納された十二支像

一代守本尊、八尊のうちの一尊を本尊としている寺社に、そのご本尊を守本尊とする信者が自分の干支(十二支)の動物像を奉納しているケースがあります。以下に例示しましたが、「丑寅、虚空蔵(うしとら、こくぞう)」といわれるように、丑寅年生れの人が虚空蔵菩薩に奉じた牛虎の像が一番多いようです。子年生まれの人の千手観音への鼠像、辰己年生れの人の普賢菩薩への竜蛇の像にはまだ出会えていません。

3-1 子(ね)歳生れの人の千手観音菩薩

千手観音は、子年生まれの人の守本尊です。でも、境内で鼠の像には出会えていません。

3-2 丑・寅(うしとら)歳生まれの人の虚空蔵菩薩

虚空蔵尊は、丑・寅歳生れの人の守り本尊です。境内に牛と虎の像があります。

3-2-1  法輪寺 京都市西京区嵐山虚空蔵山町68

虚空蔵菩薩を祀る。本堂の前には、右側に口を大きく開けた阿の「虎像」、
左脇に口を閉じた吽の「牛像」が置かれている。

3-2-2  柳津福満虚空蔵尊(圓蔵寺) 福島県河沼郡大字柳津字寺家甲176

弘法大師作とされる福満虚空蔵尊像を祀り、日本三大虚空蔵尊の一つとされる。牛虎を一対とする石像が奉納されている。

3-2-3 日向薬師「 虚空蔵菩薩社祠」 神奈川県伊勢原市日向1644

背後の日向山の奥の院に祀られていた虚空蔵菩薩を、境内の霊樹の中に社を造って納めた。

3-2-4  黒岩虚空蔵尊(満願寺) 福島県福島市黒岩字上ノ町43

牛と虎で一対の像が奉納されて、虚空蔵堂に向けて置かれている。別に撫で牛・撫で虎の像もある。

3-2-5  三萬山虚空蔵尊 埼玉県入間郡越生町上野

この社が、能満、智満、福満という三体の虚空蔵尊を祀っていることから、三満山虚空蔵尊という。長い石段を登り切った左右に、牛と虎で一対の像が縁日の日付で奉納されている。

3-2-6  方貝虚空蔵尊  群馬県前橋市東片貝町197番地西片貝1460

「方貝神社」の境内にあり、能満虚空蔵菩薩を祀る。牛と虎の石像が奉納されている。

3-2-7  村松山虚空蔵(日高寺) 茨城県那珂郡東海村村松8

平安時代の開山で、弘法大師作と伝わる虚空蔵菩薩の等身座像を祀る。本堂の前に、向かって左に虎、右に牛の石像が奉納されている。また、本堂の屋根上にも牛・虎の像があり珍しい。これらは左が牛、右が虎。

3-2-8  虚空蔵山大満寺  宮城県仙台市太白区向山

虚空蔵菩薩を虚空蔵堂に祀る寺。また、境内の「十二支八角堂」に一代守本尊八体が祀られ、左手奥の広場に「十二支石像」が置かれている。すべての人の干支をカバーして守護している。

 

3-3 卯(う)歳生れの人の文殊菩薩

文殊菩薩は、卯年生まれの人の守本尊です。境内に兎の像があります。

3-3-1  弘前(茂森)天満宮 青森県弘前市西茂森1-1-25

明治4年の修験廃止令で急遽「天満宮」となったが、以前の大行院の本尊だった文殊菩薩も引き続き祀られているという。このような経緯から、天満宮(神社)であるにも拘わらず卯年生まれの人の一代守本尊、文殊菩薩の寺ともされ、境内に兎像が奉納されている。

 

 

3-3-2 鷲巣山文殊堂 宮城県仙台市青葉区八幡6丁目

慶長8年癸卯(1603)の開山で、本尊に文殊菩薩を祀る。「仙台の十二支による守本尊」のうち、卯年生まれの人の一代守本尊とされて、兎像も奉納されている。

3-4 辰・巳(たつみ)歳生れの人の普賢菩薩

普賢菩薩は、辰と巳年生まれの人の守本尊です。でも、境内で竜と蛇の像には出会えていません。

3-5 午(うま)歳生れの人の勢至菩薩

勢至菩薩は、午年生まれの人の守本尊です。境内に馬の像があります。

白山姫神社 青森県黒石市袋字富岡112

大同年間(806ー810)、征夷大将軍、坂上田村麻呂が勢至菩薩の御姿を袋の中に入れて大木の枝にかけ、武運長久を祈ったところ、そのご加護で戦勝した。そこで勢至菩薩をご本尊として堂を建立したと伝わる。「袋観音」などとも呼ばれていたが、明治初頭の神仏分離で、白山姫神社となり、現在は伊邪那美命と菊理姫命を祭神とする。しかし、勢至菩薩に関わる社とされて、「津軽の午年生まれの一代様(守本尊)」として名を連ねている。入り口の鳥居(左)と拝殿前(右)に石造りの対の馬像が奉納されている。また、馬を線刻した奉納碑や神馬の絵馬もある。

3-6 未・申(ひつじさる)歳生れの人の大日如来

大日如来は、未・申歳生れの人の守本尊です。境内に羊と猿の像があります。

3-6-1 柳町・大日堂 宮城県仙台市青葉区一番町1-12-40

この堂は仙台市の中心地にあり、旧地名から「柳町の大日堂」と呼ばれて親しまれている。本尊の大日如来は未(ひつじ)・申(さる)歳生まれの一代守り本尊。守護未・守護申として、羊像と猿像が堂前の左右に対で置かれている。

3-6-2 五島美術館庭園 東京都世田谷区上野毛3-9-25

庭園内の大日如来像の前に、羊の石像が一対置かれている。(置かれた経緯は不明とのこと)

3-6-3 大日堂(笠間市)の羊 茨城県笠間市箱田2210

高野山金堂の壁画を描くなど「仏画の武山」といわれた日本画の巨匠・木村武山が、母の宿願をかなえるため、昭和10年に生家の敷地内に建てた仏堂。廃寺となっていた箱田吉祥院の本尊、大日如来像が安置され、天井や壁には武山の仏画が描かれている。大日堂の入り口に羊の石像が置かれている。

3-7 酉(とり)歳生れの人の不動明王

不動明王は酉年生まれの人の守本尊です。境内に鶏の像があります。

3-7-1 目黒不動尊(瀧泉寺)東京都目黒区下目黒3-20-26

目黒不動尊は江戸三大不動尊の一つ。鶏を彫った大きなレリーフが、女坂参道階段の登り口手前に奉納されている。以前の傷んでいた像に替わって、同じ図柄の新像になった。守本尊への鶏の像と思われる。

3-7-2 多気山不動尊 栃木県宇都宮市田下(タゲ)町563

宇都宮の西北10Km、多気山(376m)の中腹に位置し、不動明王を祀る。本堂へ上る長い石段の途中の左右外側に、2対の鶏像が狛犬と共に置かれている。酉年生まれの人の奉納と思われる。

3-8 戌・亥(いぬい)歳生れの人の阿弥陀如来・八幡大菩薩

阿弥陀如来と八幡大菩薩は、戌・亥年生れの人の守本尊です。境内に犬と猪の像があります。

水戸八幡宮 茨城県水戸市八幡町8-54

拝殿の前に、犬と猪を一対とした像が置かれている。社のパンフレットに載る御神徳の一つに「戌亥年守護」とあり、「御祭神の応神天皇(誉田別尊)、神功皇后は、戌年、亥年生まれと伝えられ、戌亥年生まれの方の一代の守護神として、古来より崇敬されている」と書かれている。これを受けて、拝殿前の右にイヌ(犬)が「守護戌神」、左にイノシシ(猪)が「守護亥神」として置かれた。なお、八幡大菩薩の本地は阿弥陀如来、(八幡神は阿弥陀如来の化身)。

 

Ⅳ その他の干支守護神

人を生まれ年の干支で守護してくださる神仏は、上述の一代守本尊だけではありません。下記のような例もあります。

4-1 十二支の石像

沙沙貴神社 滋賀県蒲生郡安土町常楽時1

沙沙貴(ささき)神社は、佐佐木源氏発祥の地で佐佐木大明神を祀る、延喜式内社。本殿の裏に、横一列に干支(十二支)の石像が並んでいます。それぞれの干支生まれの人が自分の干支の動物像の前で祈れば、沙沙貴神社の「歳徳神(としとくしん)」が守護し福を招いてくださるとされます。各干支生まれの人が随時奉納名を追加刻名(連名)できるようになっています。(像は彫刻家、中嶋登茂美氏の作で平成20年ころの建立)

4-2 十二支の動物を神使とする神

十二支の動物の一つを神使とする社があります。これらの社の中には、神使の動物に該当する干支(十二支)生まれの人の守護神とされている社もあります。例えば、三尾神社の神使は兎です。この縁で、卯年や卯年生まれの人の守護神ともされています。

三尾神社 滋賀県大津市円城寺町

「その昔、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)がこの地に降臨されて長等山の地主神となられたのが、三尾明神。この神は常に三つの腰帯をつけておられた。ある時その三つの腰帯が赤尾神・白尾神・黒尾神となられ、それぞれ三ヶ所で出現された。三神の中で最初に出現されたのは赤尾神で、太古卯年の卯月卯日卯の刻だった」。以上から、神社名は三尾神社となり、神紋は「真向きの兎」、神使は兎とされました。現在では、三尾神は「卯年生まれのの守護神」ともされています。境内にはさまざまな兎の像や図が見られますが、神使としてのもので、卯年生まれの人の奉納ではなさそうです。

 

4-3 十二神将の十二支守護

十二神将は、薬師如来の周囲を守護する十二体の神将です。十二神将は、それぞれ十二支と関連付けて信仰され、十二支が示す、それぞれの時刻や方位、干支年や干支年生まれの人の守護神とされています。

高尾山薬王院有喜寺 東京都八王子市高尾町2177

境内に「十二神将十二支・方位塔」が奉納されています。この高尾山の方位塔では、特に、十二の方位を守る神将とされ、十二支の動物が添えられています。

十二神将 左から (方位 干支  神将)
上段: 北 子神 毘羯羅大将、 北東 丑神 招杜羅大将 、 東北 寅神真達羅大将、  東 卯神 摩虎羅大将 、 東南 辰神 波夷羅大将、 南東 巳神 因達羅大将
下段:  南 午神 珊底羅大将 、 南西 未神 あに羅大将、 西南 申神 安底羅大将、 南 午神 珊底羅大将 、 南西 未神 あに羅大将、 西南 申神 安底羅大将