水場の神使たち

神社や寺の境内で、Ⅰ「手水鉢の吐水口」や  Ⅱ「ご神水の給水口」に、神使の動物などが配されているのを見かけます。さらに、水場には、Ⅲ「水かけ鯰や水かけ兎」もありました。

水場に置かれている動物は、水神とされる龍が圧倒的に多いのですが、神社の祭神や寺の本尊などとの縁で神使やお使いとされている様々な動物もあります。「水場の神使たち」をご覧ください。

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Ⅰ 手水鉢の吐水口の神使

神社や寺には参拝に際して心身を清めるための手水場があり、手水鉢に水が満たされるようになっています。手水の吐水口として、竹筒や井戸樋(とい)などさまざまありますが、水神の龍を筆頭にその社の神使が配されているのも目にします。

1 龍・竜

手水の吐水口のほとんどが龍。意匠を凝らした青銅製の龍が最も多いのですが、石造の龍もあり、まれに倶利伽羅(くりから)龍の吐水口もあります。以下はほんの一例です。

①青銅製の龍

吐水口の神使の大部分はこの青銅製の龍。

上段:咲前神社(群馬・安中市) 大村神社(三重・伊賀市) 岩本寺(高知・高岡郡四万十町)                                                       下段:・妙法寺(東京・杉並区堀ノ内) 九頭龍神社(神奈川・箱根町) 大山寺(神奈川・伊勢原市)

 

  ②石造の龍

伏見稲荷大社 稲荷山(京都市伏見区深草)

石龍の吐水口だが、稲荷神の神使の狐のような面相も。


 

本法寺(神奈川・横浜市港北区小机町)

「石造龍吐手水鉢」  一塊の巨石材からすべてを彫り出したもの(一石彫成)


 

江島神社(神奈川・藤沢市江の島)

石龍の吐水口。江の島は古来より龍神の住む処ともされ、龍神信仰と弁天信仰とが習合して江島神社が形成された。龍、蛇、亀は弁財天(江島神社)の神使。


 

大杉神社・沙沙貴神社

石龍の吐水口。左:大杉神社(茨木・稲敷市阿波) 右:沙沙貴神社(滋賀・安土町)


 

諏訪大社下社秋宮(長野・諏訪郡下諏訪町)御神湯
諏訪明神の龍神伝説にちなんだ温泉の手水

 

③倶利伽羅(くりから)龍

西光院(埼玉・川口市)

倶利伽羅龍の吐水口。龍が利剣に絡み、その利剣を剣先から呑み込もうとしている。(口から吐水)

 

 

 

 

 

2  兎

調(つき)神社(さいたま市浦和区)

兎の吐水口。 江戸期に「調」と「月」がともに「つき」と読むことや別当寺が勢至菩薩(月天子)を本尊としていたことなどから月待信仰に結びついた。兎は月神の神使。

 

 

三尾神社(滋賀・大津市円城寺町)

兎の吐水口。三尾神の出現が卯年卯月卯日卯刻で卯の方向からだったことから兎が神使とされた。神紋は「真向きの兎」。

 

宇治上神社(京都府宇治市)

兎の吐水口。祭神の莵道稚郎子(うじわきのいらつこ)が道に迷っていると、この地まで兎が案内してくれたという。兎が神使。宇治は兎道(うじ=うさぎみち)とも書かれた。

 

住吉大社(大阪市住吉区)

兎の吐水口。神功皇后が新羅遠征の帰路、ご神託により住吉大神を祀った(住吉大社の創建日)のが辛卯年卯月卯日だったとのことから、兎が住吉大社の神使。

 

魚住住吉神社(兵庫・明石市魚住町)兎の吐水口。住吉神の神使は兎(上述)

 

3  牛

北野天満宮(京都市位上京区馬喰町)

牛の吐水口。祭神、菅原道真公の誕生日や死去日が丑の日、墓所は牛車の止まった所とされたとのことなどから、道真公の神使は牛。

 

4 蛇

大神神社(おおみわじんじゃ・奈良・桜井市三輪)

蛇の吐水口。祭神、大物主大神は蛇神で酒造の神とされる。酒樽に巻きつく大蛇の口から吐水。

 

5 羊

羊神社(愛知・名古屋市北区辻町)

羊の吐水口。群馬県にかつてあった多胡群の領主「羊太夫」がこの地に火の神を祀ったとされることや、旧村名の「火辻村」、神社名「羊神社」の「羊」から羊が神使とされる。

 

6 猿

布勢・日吉神社(鳥取市布勢)  山王の猿

猿の吐水口。祭神、大山咋神(山末之大主神)が持つ山の神(山王)という神格と比叡山の猿とが結びついて、猿が山王の神使にされたとされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下野庚申堂(岐阜・中津川市下野中) 庚申信仰の猿

猿の吐水口。庚申の日の夜、「三尸の虫」は人が寝ている間に体を抜け出してその人の罪状を天帝に告げに行く。天帝はその罪過に応じて寿命を縮めるという。それを避けるため寄り集まって寝ずに過ごした。庚申の申(さる)などから猿が神使とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫実(ねこざね)庚申塔(千葉・浦安市猫実)  庚申信仰の猿

(参考)手水鉢を担ぐ庚申信仰の神使の猿(上述)

 

 

 

 

 

 

7  鶏

龍田神社(奈良市生駒郡斑鳩町)

鶏の吐水口。鶏がトキ(時)を告げるのが遅れて、往馬(いこま)大社からの出兵が遅れた。これに怒った神功皇后は鶏を龍田川に流した。鶏は下流で龍田の神に拾われたという。龍田神社の神使は鶏。

 

8  猪

護王神社(京都市上京区桜鶴円町)

猪の吐水口。祭神の和気清麻呂は突如現れた300頭の猪に援けられた。この由縁からこの社の神使は猪とされた。

 

建仁寺禅居庵(京都市東山区小松町)

猪の吐水口。祭神の摩利支天尊は陽炎(かげろう)を神格化した女神。三面六臂で弓矢などを持ち猪に乗り疾駆する。神使は猪

 

9  亀

松尾大社(京都市右京区嵐山宮前)

亀の吐水口。松尾大神は緩流は亀に乗り急流は鯉に乗ってこの地に来られ鎮座されたとされる。亀は松尾大社の神使。

 

江島神社奥津宮(神奈川・藤沢市江の島)

亀の吐水口。江の島は古来より龍神の住む処ともされ、龍神信仰と弁天信仰とが習合して江島神社が形成された。龍、蛇、亀は弁財天(江島神社)の神使。

 

 

10 鹿

春日大社(奈良市春日野町)

鹿の吐水口。祭神、武甕槌(たけみかづち)大神は、勧請された際、鹿島神宮(茨木)から鹿に乗って三笠山(奈良)までこられて鎮座されたとのこと。春日大社の神使は鹿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相洲春日神社(横浜市戸塚区)

鹿の吐水口。春日神社の神使は鹿(上述)。二頭のうち手前の鹿が手水鉢に吐水。

 

11  蛙

末廣大神」京都市伏見区稲荷山)

蛙の吐水口。子を負う神使の蛙が吐水。境内の鳥居の前には左右一対の子を背負った大蛙が構えている。

 

二見興玉神社(三重県二見町)

蛙の吐水口。手水舎に鎮座しているのは神使の「満願蛙」。吐水している。水をかけると願いが叶うという。

 

12 蒼龍と白虎

平安神宮(京都市左京区岡崎西天王町)

平安神宮は平安京遷都1100年を記念して創建された社。平安京は陰陽五行説による風水思想に基づいて建設された。このような経緯から、方位の四神のうちの蒼龍と白虎が水場に置かれたものと思われる。蒼龍や白虎の名を付けた楼や池もある。

 

13 鳩

首途(かどで)八幡宮(京都市上京区桜井町)

鳩の吐水口。八幡神の神使は鳩。

 

14  鷺

白鷺神社(栃木県河内郡上三川町)

鷺(さぎ)の吐水口。祭神は日本武尊。日本武尊の霊魂は大きな白い鳥になって墓から飛び立ったとされ、この社では白鷺が神使とされている。「翔舞殿」の前には一対の白鷺の像もある。

 

15 象

万松寺(名古屋市中区大須)

象の吐水口。曽洞宗の寺で尾張・織田家の菩提寺。釈迦如来は白い象の姿になって摩椰夫人(マヤブニン)の胎内に入り誕生された。象は仏教と縁が深い。

 

16  狐

見稲荷大社-稲荷山目力社(京都市伏見区)

狐の吐水口。狐は農耕期になると人里に姿を見せるからとか、食物神の別名御饌津神(ミケツカミ)の字に「三狐神」を当てたからとか、狐が稲荷神の神使とされた由縁には諸説ある。この手水鉢では、飛び跳ね狐が咥えた笹竹の先から吐水している。

 

烏森稲荷神社(東京・目黒区上目黒)

狐の吐水口。稲荷神の神使の狐(上述)の頭部が置かれ、口から手水鉢に吐水。

 

17 魚(鯉?)

魚の吐水口。  太田姫稲荷神社(東京・千代田区神田駿河台) 魚(鯉?)

 

18 獅子

石獅子の吐水口。手向山八幡宮(奈良市雑司町)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19 狛犬

陶製狛犬の吐水口。阿倍野神社(大阪市阿倍野区) 陶磁器製の狛犬


 

Ⅱ 神水・霊水の給水口の神使

境内に、手水用の水ではなく、神水や霊水とされる浄水(井戸水・湧き水など)がある社があります。これらの浄水を戴く(飲んだり、持ち帰る)ことは「お水取り」とよばれます。神社によっては「お香水」などとよんでお水取りを神事としているところもあります。これらのご神水の水場に、給水口として神使の龍や動物が配されている場合があります。

 小平神明宮(東京・小平市小川町) 水取の井

獅子の給水口。手水舎ではなく、お水取りの井戸なので手・口を濯(あら)わないようにとある。

 

江島神社(神奈川・藤沢市江の島) 黄金浄水

黄金浄水の銭洗い白龍王。白龍王は江島弁財天の神使。浄水の水源には純金の小判が秘められていて、龍王の持つ玉から落ちる霊水で心とお金を洗い清めるとご利益がある。

 

田無神社(東京・西東京市田無町) 白龍の神水

白龍の吐く水は、境内の深い井戸からくみ上げたご神水。なお、この社は中国の五行説(万物は木・火・土・金・水から成る)に基づき五体五色の龍神も祀る。

 

箱根神社(神奈川・箱根町元箱根) 箱根神社・九頭竜神の霊水 

九頭龍(くずりゅう)神社の新宮もある箱根神社の境内に、九頭の龍が神水を吐く水場がある。箱根山(神山駒ケ岳)を源とし九頭龍神の守護する芦ノ湖を満たす霊水である。口を漱げば不浄を洗い清め、神棚に供えれば家内清浄縁起の養生となる、という。


 

 

大山 阿夫利(あふり)神社(神奈川・伊勢原市大山) 大山神泉水

阿夫利神社は雨降山大山寺と共に大山のi山頂にあり、山岳信仰、雨乞いで知られる。大山神泉水は、大山の山内ただ一ヶ所の水源から引水した清らかな尊い水。阿夫利神社の神使の龍が給水。水は生々発展の原動力なので、殖産や長寿延命にご利益がある。

 

 

布施弁天東海寺(千葉・柏市布施)  龍頭泉

龍頭泉の水を給水する龍。雨水が20年かけて染み通って地下の水源に湧き出した浄水で、地下60mから汲み上げる。

 

 

磯山(出流原)弁財天 (栃木・佐野市出流原町) 白蛇霊泉

弁財天白蛇の霊泉 宇賀弁財天を祀る社で白蛇が神使。山中の「白蛇の霊泉」の給水口は奇怪な白蛇。

 

松尾大社 (京都市右京区嵐山宮前) 亀の井

亀の井の水は背後の松尾山からの湧き水。この社は酒造の神として知られる。亀の井の水を醸造の際に元水とすると酒が腐らず良い酒ができると伝わり、酒造家が水を持ち帰る。松尾神は緩流は亀に乘って急流は鯉に乗ってこの地に来られ鎮座されたとされ、亀は神使。亀の井では、神使の亀がご神水を酒樽に吐水している。


 

 

東霧島(つまきりしま)神社(宮崎県都城市高崎町)   龍王神水

龍王神水は東霧島神社のゆや谷に鎮座する龍王が下される霊水で、特に商業の人は銭を洗って身に納め、病の人は霊水を飲むとよい、とある。岩上の白龍が咥える玉から水が落ちている。

 

目黒不動尊・瀧泉寺(東京・目黒区下目黒)  独鈷の滝

独鈷(とっこ)の滝は、慈覚大師円仁が、1200年前に堂宇建立の地を定めるのに際して、密教の法具の独鈷(とっこ)を投じたところ、落ちた地から湧き出した滝。以来、旱天が続いても涸れることなく湧出している。さまざまな石像などが並ぶ崖斜面下の石壁にある龍の口から独鈷の池に流れ落ちている。

 

目黒不動尊・瀧泉寺(東京・目黒区下目黒)  鯱の水口

女坂の上り口左側で、鯱(しゃちほこ)の口から湧き水が流れ落ちている。この水は飲まないように、とある。一般に鯱は火災時に水を吹きだし鎮火するとされることから、屋上の大棟の両端に棟飾りとして設置され、防火、鎮火の役割を期されている。

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調神社(さいたま市浦和区岸町)  池の噴水口は神使の兎

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射楯兵主神社(兵庫・姫路市総社本町)) 池の給水口の龍

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Ⅲ 水かけ神使

 

豊玉姫神社(佐賀・嬉野市嬉野町) 水かけ鯰(なまず)

美肌の湯として知られる、嬉野(うれしの)温泉にある神社。鯰(なまず)は、祭神、豊玉姫のお遣い(神使)とされ、この「なまず様」に嬉野温泉から引いた宝水をひしゃくでかけてお祈りすると美肌になる、とある。

 

大村神社(三重県伊賀市阿保) 水かけ鯰(なまず)

この社は地震守護の社として知られ、境内には配神の武甕槌命(鹿島神宮)・経津主命(香取神宮)がもたらしたとされる「要石」(かなめいし)を祀る要石社がある。要石とは、地震を引き起こす大鯰(おおなまず)を押さえ込んでいる霊石。要石社の前の大鯰に水をかけて地震・災害除けを祈る。

 

岡崎神社(京都市左京区岡崎)  水かけ兎

岡崎神社の神使は兎。兎は多産なので、子授け、安産、縁結びなどのご利益をもたらすという。境内の各所に兎の姿があるが、この水屋の兎は特に子授けの兎とされ、兎に水をかけてお腹をさすって祈る。願いを描いて絵馬を納める。