三本足の烏を持つ「日天」と兎を持つ「月天」

密教の守護神の十二天の中に、日天子(にってんし・日天)と月天子(がってんし・月天)がおられ、「三本足の烏」「兎」を持つ像容もあります。日天・月天は太陽神と月神で、神道では、天照大御神と月読尊に相当します。

      文中の写真はクリックして拡大写真をご覧になれます

十二天とは

十二天」と呼ばれる密教の護法神がおられます。四方(=東西南北)と四維(しい:天地の四隅=北東、南東、南西、北西)の八方位を守護する八尊に、上・下(=天地)の二尊ならびに、日・月の二尊を加えた十二尊(十二天)です。いずれも元はバラモン教などの古代神で、後に仏教に取り入れられて天部に属し、方位守護の仏として再編されました。独尊が12体としてではなく、十二天で1セットと考えられているようです。2次元の四方、3次元の四維と上・下(天地)、4次元の時間(日月)、すなわち、全時空(宇宙・曼荼羅)にこの十二天が配置(分担)されて守護しています。

■ 八方位の守護:東=帝釈天(たいしやくてん)、南東=火天(かてん)、南=閻魔(焔魔)天(えんまてん)、南西=羅刹天(らせつてん)、西=水天(すいてん)、北西=風天(ふうてん)、北=毘沙門天(びしやもんてん)、北東=伊舎那天(いしやなてん)
■ 上・下(天地)の守護:上(天)=梵天(ぼんてん)、下(地)=地天(ちてん)
■ 日・月:日天(にってん)、月天(がってん)

十二天図像

      諸宗仏像図彙.3(梶川辰二著):国立国会図書館デジタルコレクション 

三本足の烏を持つ日天と兎を持つ月天

十二天のうちに、日天(日天子・にってんし)と月天(月天子・がってんし)がおられます。太陽神と月神です。像容のなかには、自らの身を証明するかのように、太陽(日)の神使である「三本足の烏」や、月の神使の「兎」を持つものもあります。

「日天子」は、太陽(日輪)を神格化した神で、観世音菩薩の化身ともされ、日輪を手に持った姿で表わされ、日輪に神使の三本足の烏が入っている像容もみられます。また、7頭または5頭立ての馬車に乗る姿もあるとのことです。

 ■「月天子」は、月やその光明を神格化した神で、勢至菩薩の化身ともされ、月珠を手に持った姿で表わされ、月珠に神使の兎が入っている像容もみられます。また、複数の鵞鳥(がちょう)と共に表されている姿もあるとのことです。

三本足の烏(日輪)を持つ日天 日天子尊姿

左図は高野山霊宝館HPより、 右図は諸宗仏像図彙より

荒幡・浅間神社(荒幡富士)
埼玉県所沢市大字荒幡748(荒幡富士・市民の森)

埼玉県所沢市に「荒幡富士」と呼ばれる大きな富士塚が立つ「荒幡・浅間神社」があります。その境内に「日輪を持つ日天子の尊像」があります。日天子は観世音菩薩の化身とされます。蓮華に載る日輪には磨滅してはいますが「三本足の烏」が線刻されています。

日天子(日天)像:日天子が持つ日輪の中の三本足の烏(拡大図)

 

兎(月珠)を持つ月天  月天子尊姿

左図は高野山霊宝館HPより、 右図は諸宗仏像図彙より

堀之内 妙法寺
東京都杉並区堀ノ内3

妙法寺の「二十三夜堂」は、二十三夜様(二十三夜大月天王)をお祀りしている堂で、月齢が二十三日の夜、月待ちをして祈れば願い事が叶うと信仰されています。下掲の絵馬に見られる、主尊の二十三夜大月天王は、「月天子(がってんし・月天)」ともよばれ、勢至菩薩の化身とされます。捧げる月珠には兎がいれられています。

妙法寺の絵馬:二十三夜大月天王(勢至菩薩・月天子) 月天子が捧げる月珠の中の兎(拡大図)

平安時代から知られる十二天ですが、その尊姿は少なく、その中で「立体像」より「画像」の方が多く、十二天が一組とされています。単独尊としてはなかなか見られません。したがって、十二天に属す日天・月天の像も一般にはなじみが薄いようです。日天・月天像のなかには、それぞれが捧げている日輪や月珠の中に神使の「三本足の烏」や「兎」がみられるものもあります。神使像めぐりで出会った、像・絵馬をここに紹介させていただきました。