観阿弥の謡曲「江口」

観阿弥の謡曲に「江口」というのがあります。「浮世は仮の宿で、精進すれば後生は成仏して救われる」という仏教の大乗を暗示する、奥深い曲です。

 観阿弥の謡曲「江口」のあらすじ 遊女が普賢菩薩に!

西国行脚の旅僧が摂津国江口の里(大阪市東淀川区)に到ると、出会った女が、むかし、西行法師が宿を借りた時の問答歌(下記)を聞かせて、「自分はその時の遊女、江口の君「妙」の化身である」と告げて消え去る。旅僧がその跡を弔っていると、再び先ほどの遊女が侍女と共に舟に乗って現われ、舟遊びの様や歌舞を奏して楽しんでいたが、やがて、遊女(江口の君)は普賢菩薩と化して白雲に乗り西の空に消えていく。

問答歌 (新古今和歌集 巻十)

世の中を厭(いと)ふまでこそ難(かた)からめ、かりの宿りを惜しむ君かな 西行
世をいとふ人とし聞けば、かりの宿に心止(と)むなと思ふばかりぞ 江口妙

勝川春章「見立江口の君図」

 

 

 


勝川春章「見立江口の君図」
ボストン美術館所蔵
肉筆浮世絵展 江戸東京博物館(2006.11)
(頒布グッズ・クリアファイルの絵)

 

勝川春章の肉筆画「見立江口の君図」は、観阿弥の謡曲「江口」に題材をとった(見立てた)、「象に乗った遊女」の絵です。
「見立て図」では、謡曲の中で遊女江口の君が普賢菩薩と化すさまを、普賢菩薩は白象に乗った姿で表わされることが多いので、「白象に乗った江口の君(=普賢菩薩)」として表現されています


堀之内・妙法寺の奉納額絵 (額堂内)

東京都杉並区堀ノ内3-48-8、地下鉄丸ノ内線東高円寺下車15分

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妙法寺に奉納された額絵です。観阿弥の謡曲「江口」の場面です。遊女「江口」が、侍女と共に舟遊びの様や歌舞を奏して楽しむうちに、普賢菩薩と化して白雲に乗って西の空に消えていく場面です。江口の君が普賢菩薩と化すさまを、普賢は象に乗った姿で表わされるので、上掲の勝川春章の「見立て図」と同様に、「象に乗った遊女」として表現されています。

神使の館 普賢菩薩の象へ