カッパ狛犬カッパ狛犬

頭天に窪み(凹)のある狛犬があり、「カッパ狛犬」と呼ばれています。 河童(かっぱ)は、頭に水を溜めておく皿(さら・窪み)があり、 皿の水が乾くと生きていられない想像上の動物(妖怪)とされます。 そこで、河童と同様に「頭に水が溜まるような窪み(凹状)のある狛犬」は、その像容から、河童に縁が有る無しに拘わらず、一般に「カッパ狛犬」と呼ばれているようです
なぜこのようなカッパ狛犬があるのか(造られたか)、狛犬を造った人や奉納者の記録なども見当たらず(私の不勉強の故かもしれませんが)、窪み(凹)を付けた理由や凹の利用目的、あるいは凹のできた原因などは定かではありません。凹の理由や目的、原因が判らない中で、なんとか合理的な解答をさがそうと、いろいろな推測をしているのが現状だといえましょう。
以下に、私が東京近辺で出会った、カッパ狛犬を並べてみました。とりあえず、Ⅰ河童とされているカッパ狛犬、Ⅱ火を灯すカッパ狛犬、Ⅲその他 目的や成り立ち不明なカッパ狛犬 に分けて列挙しました。カッパ狛犬には、左右一対の両方の頭に凹のあるものと、どちらか片方だけにしか凹がないものとがあります。 最後欄に、カッパ狛犬について、私の勝手な考察を述べさせていただきました。

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Ⅰ 河童(かっぱ)とされているカッパ狛犬

①常堅寺と②長崎諏訪神社内蛭子神社には、河童伝説に基づいて、カッパ狛犬が置かれています。

① 常堅寺

常堅寺 宮城県遠野市土淵町土淵7-50

河童伝説に基づき河童とされているカッパ狛犬

常 堅寺は延徳2年(1490)に開山された曹洞宗の古刹です。常堅寺のある遠野地方の河童は、柳田國男氏が「遠野物語」の中で河童の伝承を記して以来全国的に有名になりました。 1-2-1 0304r60# 常堅寺には 「昔、寺が火災に遭ったとき、裏の小川(カッパ淵)に住んでいた河童が消火を手伝ってくれた」との伝承があります。その由縁から、頭上に水の溜まる窪みのある一対の狛犬(江戸尾立狛犬)が、「カッパ狛犬」と呼ばれて十王堂の前に置かれています。この像は、全国的に知られる最も有名な「カッパ狛犬」ですが、寺の裏手にあるカッパ淵と共に遠野の河童名所のひとつになっています。 1-1-1 岩手遠野・常堅寺 0278r60# 1-5-1 岩手遠野・常堅寺 左右r02#

② 長崎諏訪神社内 蛭子社

長崎諏訪神社 長崎市上西山町18-15

狛犬仕様で造られた川伯(河童・かっぱ)

案内板より ご祭神の蛭子(ひるこ)の神(=少彦名神)は、河川の「水上安全」、子どもの「水泳上達」など水に係わる願事成就の神とされ、さらに「水子守護」の神として尊崇されています。 この池は昔から「川伯(かわはく)の井戸」と呼ばれ、川伯(河童・カッパ)はこの蛭子の神の使いと言われております。 2-1 長崎諏訪神社 カッパ狛犬左右# 河童像は、蛭子神の神使の川伯(=河童かっぱ)を、「川伯の風貌の頭・顔を持つ、尾立ち狛犬」としたもので、阿吽の一対になっています。頭髪の真ん中には皿(窪み)があり(いわゆるおカッパ頭で)、蹲踞(そんきょ)してにらみを利かせています。皿には賽銭が入れられています。オーダーメードの本物の河童狛犬です。 2-2 長崎諏訪神社 カッパ狛犬左右02#

Ⅱ 火を灯す カッパ狛犬

下記の ③品川神社内御嶽神社と④寄木神社のカッパ狛犬について次のように伝わります。両神社とも、江戸時代にはもっと間近に海がせまっていて、品川-大森海岸では特に海苔(のり)の収穫作業が盛んでした。11月から3月にかけて行われる「海苔採り」は朝暗いうちから沖に出ての作業でしたので、狛犬の頭にロウソクの火を灯して、沖の船からの目印としていたと伝わります。

③ 品川神社内 御嶽神社

品川神社 東京都品川区北品川3-7-15

品川神社の正面階段を登った境内の右手にある御嶽神社の社前に、一対のカッパ狛犬(小ぶりの江戸尾立狛犬)が奉納されています。この狛犬の頭の窪みにロウソクを灯して、夜の漁労(海苔採り作業)の際、沖合から方向・位置確認をする目印としていたとのことです。 3-1 品川神社内御嶽神社 IMG_5278r40 3-2 品川神社内御嶽神社左右r02

④ 寄木神社

寄木神社 東京都品川区東品川1-35-8

この社には3対の狛犬があります。拝殿前の高い台座に載った大きな狛犬の前に、左右とも頭に窪み(凹)のあるカッパ狛犬(江戸尾立狛犬)は置かれています。小ぶりなのが目立ちますが、カッパ狛犬は、台座を入れても120㎝ぐらいの高さです。頭の窪みに火を灯して、暗いうちからの海苔採り作業の際、沖の船からの目印としたとされます。                     奉納 文政十一年戊子年(1828)五月吉日 4-0 寄木神社IMG_4818#r40_edited-1## 4-2-1 寄木神社 カッパ狛犬左右r02##

Ⅲ その他のカッパ狛犬

頭に窪み(凹)があるカッパ狛犬ですが、窪み(凹)について特段の伝承などもなく、造られた経緯や置かれている理由なども不明な狛犬です。凹は対の両方場合も片方の場合もあります。(順不同で掲載)

 ⑤ 川越氷川神社内 柿本人麿神社

 川越氷川神社 埼玉県川越市宮下町2-11-3

左右とも頭に窪み(凹)のあるカッパ狛犬ですが、左の吽像の凹のみに水を入れ、左右非対称として置かれています。        奉納 享保三戊戌(1718年)九月吉日 5-1川越氷川神社内柿本人麿神社前r02 5-3斜め 左右r02

 ⑥ 元麻布・氷川神社

元麻布・氷川神社 東京都港区元麻布1-4-23

元麻布のマンション群の中にある神社で、A・B、2対のカッパ狛犬があります。2対とも現役ではなく、境内の片隅に鼻を突き合わせたように向い合せて置かれています。両者とも毛長で、先端は大きな渦巻状の巻き毛なっています。小型の狛犬ですが、端正で出来の良い狛犬で、同じ石工の手によるものと思われます。Aは左右とも、Bは片方が凹となっています。

⑥-A 両方の頭にしっかりした彫り穴(凹)のある阿吽のカッパ狛犬で、横向きにお互いを見つめあっているように置かれています。 6-A 元麻布氷川神社のカッパ狛犬AR03#

⑥-B Aと同様に小型の狛犬ですが、境内の片隅にチューをしているように向い合せに密着して置かれています。左の吽像は頭に髷(まげ)状の突起物を載せており、右の阿像は頭の中央に窪みが彫られカッパ狛犬になっています。 6-B1 元麻布氷川神社のカッパ狛犬BDSCF1903R40_edited-3# 6-B2 元麻布氷川神社のカッパ狛犬B頭頂部#

 ⑦ 富岡八幡宮

富岡八幡宮 東京都江東区富岡 1-20-3

正面の幅の広い参道階段の脇(わき)に置かれている、かなり大型の狛犬です。左の吽像の狛犬は頭に窪み(凹)があるカッパ狛犬ですが、右の阿像の頭は平らで何もありません。        奉納 享保十二丁未歳(1727年)八月吉祥日 7-2斜め左右r02 7-3アップ左右Br02#

⑧ 三囲(みめぐり)神社

三囲神社 東京都墨田区向島2-5-17

参道の左右、阿吽の狛犬の頭の両方に窪みがあるカッパ狛犬です。大型で高い台座に載っていますので、意識して背伸びして見ないと気づきません。奉納 延享2年(1745)5月22日 8-1 三囲神社IMG_5136r40# 8-2 三囲神社狛犬左右r02# 8-3 三囲神社阿吽カッパ狛犬r02#

⑨ 亀有香取神社内 招魂社

亀有香取神社 東京都葛飾区亀有3-42-24

旧本殿だった招魂社殿の前に、一対の小型の狛犬が低い台座に載っています。左側の吽像の頭にははっきりとした窪みがあります。江戸期の狛犬と思われますが作造年不明。 9-1 亀有香取神社9-2 亀有香取神社招魂社左右9-3 亀有香取神社内招魂社頭左右

⑩ 素盞雄神社内 浅間神社

素盞雄(すさのお)神社 東京都荒川区南千住6-60-1

祭神が降臨されたとする瑞光石の上に富士塚を築き浅間神社を祀っています。入り口の鳥居の内側に左右一対の狛犬が奉納されています。ネットの情報にによると宝暦10年(1760)の狛犬とのことです。左の像の頭には窪み(凹)がありカッパ狛犬になっています。右の像の頭は多少窪んでいるようですがはっきりしません。 10-1 I スサノオ神社内浅間神社10-2 スサノオ神社内浅間神社左右10-3 スサノオ浅間神社頭左右

⑪ 淺草神社境内 夫婦狛犬

淺草神社 東京都台東区浅草2-3-1

正面の鳥居をくぐってすぐ右手にあります。江戸期の狛犬が相合傘をさして寄り添って置かれ、「夫婦狛犬」と呼ばれています。小ぶりで素朴、真正面を向いていることから1700年代前半ぐらいの狛犬(江戸初め?)と思われます。両者とも頭に窪みがあり、カッパ狛犬です。頭に、はめ込み式の角があったともいわれますが、現在は残っておらず、定かではありません。 11-1 淺草神社夫婦狛犬111-2 淺草神社夫婦狛犬2

⑫ 鳩森八幡神社内 浅間神社

鳩森八幡神社 東京都渋谷区千駄ヶ谷 1-1-24

鳩森八幡神社は「江戸名所図会」にも載る古社です。境内に千駄ヶ谷富士とも呼ばれる富士塚があり浅間神社を祀っています。富士塚の登拝口の鳥居前に一対の狛犬が置かれていますが、左右とも頭に窪み(凹)のあるカッパ狛犬で低い台座に載っています。        奉納 享保20年(1735年)9月 12-1 鳩森八幡内浅間神社富士塚入り口#12-2 鳩森八幡内浅間神社前左右r02#12-3 鳩森八幡内浅間神社頭左右r02#

⑬ 赤坂氷川神社

赤坂氷川神社 東京都港区赤坂6-10-12

赤坂のマンション群の中にあって広い境内に緑の木々が茂る古社です。たくさんの狛犬に目を奪われながら参道を行くと、本殿の入り口に楼門があります。この門前の左右に植え込みに隠れるように小ぶりな狛犬が一対あります。「はじめ」タイプともいえる狛犬で、左右の頭に窪み(凹)があるカッパ狛犬です。          建立 延宝3年(1675年)6月吉日 13-1 赤坂氷川神社カッパ狛犬左右r0213-2 赤坂氷川神社カッパ狛犬頭左右r02

⑭ 稲城市長沼・青渭神社(あおいじんじゃ)

青渭神社 東京都稲城市東長沼1053

境内に2対ある狛犬のうち本殿に近い方の一対(江戸立尾)は、左右両方の頭が窪(凹)んでいる、カッパ狛犬です。     奉納 文政13年(1830)6月吉日 14-1 青渭神社前14-2 青渭神社左右像14-3 青渭神社左右頭

⑮ 小平神明宮

小平神明宮 東京都小平市小川町1-2573

この社には5対の狛犬があり、そのうち4対が江戸期に奉納されたものです。本殿右手の東殿三社の前にも江戸期の小ぶりな狛犬が置かれていますが、この一対だけが左右とも頭に窪みのあるカッパ狛犬になっています。  奉納 安政2年(1855)6月吉日 15-1 小平神明宮東殿前15-2 小平神明宮 東殿像左右15-3 小平神明宮東殿像左右頭1小平神明宮東殿像左右頭2

 ⑯ 北小浜八幡神社

北小浜八幡神社 埼玉県加須市睦町2-7-49

拝殿の前にある比較的高い台座に載っている、阿吽の江戸尾立狛犬ですが、左の吽像の頭には髷(まげ)状のものが載せられ、右の阿像の頭には窪み(凹)がありカッパ狛犬になっています。         奉納 文政6年(1823)5月吉日 9-1 北小浜八幡 2044r40# 9-2 北小浜八幡 左右r02-23-1#


 

私の勝手な考察 カッパ狛犬について

 

上掲のように、頭に窪み(凹)があるので「カッパ狛犬」と呼ばれる狛犬は、ほうぼうにかなりの数が点在することから、珍しいものとはいえません。また、これらのカッパ狛犬は、特定の使用目的のために、特別に頭に窪み(凹)を彫るように注文して作像されたものでもなさそうです。わざわざ注文して造ったにしては、使用目的を満たすのにあまりに中途半端なものに思えるからです。

 例えば河童に見せるためなら②の長崎諏訪神社の河童狛犬ように一目で河童と分かるように造るとか、③④のように沖の船からの目印にするにはカッパ狛犬の頭のロウソクの灯程度では実用に供しないのでは?、篝火(かがりび)や大灯篭や燈台(常夜燈)などの方がベターです。また、火を灯すなら、頭にロウソク立てを載せた狛犬にするとか、さらに、参道の足元を照らすには数対のカッパ狛犬を並べる(燈篭のように)ことも必要かもしれません。                             なお、頭の窪みは、角や髷がとれた痕には見えません。初めから彫られているもののようです。角などを後付けしたり、取り外しのための穴との推測もありますが、あったにしても、例外的な事例だと思われ、また、それが出来るような窪みは少なく、すべてのカッパ狛犬に共通するものとはいえません。

唯一、②の長崎諏訪神社の川伯(河童)狛犬だけが注文で造られた本物の河童狛犬といえます。

私は東京近辺で私が出会っただけでもこれだけの数のカッパ狛犬が存在するということ自体が、江戸時代の中期から後期にかけて、狛犬の像容の一様式として、角や髷、宝珠などと同様に、頭に窪み(凹)が配された狛犬が造られ普及していたことを裏付けていると考えました。そして、その出来合いの窪み(凹)が、後(のち)に、カッパに見立てられたり、火を灯すもの、供物や水、賽銭を供するものなどとして利用され、また、角などの後付けのための穴たとか、角などがとれた痕(あと)だとかの推測をもたらした、とみると合理的な説明になるのではと思っています。

なお、通常、狛犬の頭に角や髷があるからといってその利用方法やそのような狛犬が置かれた根拠などが話題になることはありません。同様に、カッパ狛犬も特殊なものではなく「普通の狛犬」の一様式として扱われたので、奉納されているカッパ狛犬について何の伝承や置かれた経緯の説明がないのがあっても当然のことといえましょう。奉納も「狛犬一対」と記録されるだけです。


 

参考

鹿の頭の穴

田中・鹿渡神社 千葉県東金市田中318番

東金市には鹿渡神社が3社あります。そのうちの一社です。拝殿に上る階段の下に、神使の石鹿が雌雄一対で奉納されています。右の牡鹿の頭に穴が二つ彫られています。 奉納は寛政7年(1795)。 10-1 参考 田中・鹿渡神社IMG_1348r60# 鹿の頭の穴 右の牡鹿の頭に穴が二つあります。この穴は例祭日に角をはめ込むためのもので、普段、角は外してしまってあります。近隣にある福俵・鹿渡神社の鹿にも同様の穴があり1月15日の例祭日には角を取り付けます。(写真下 左は雌、右は角のある雄) 10-2 参考 田中・鹿渡神社鹿の角穴r02#