「鬼子母神」と「鬼神社」の 二社の神額などでは、 「鬼」の字を表記するのに、 角(つの)の無い鬼の字を用いています。
鬼の字から角をとった字か、もともと角のない鬼の異体字を用いたか、は分かりませんが、いずれにしろ角のない字を使うことで、仏に帰依して善神になった鬼や、人助けをしてくれた鬼を表現しているものとされます。
雑司が谷・鬼子母(きしも)神
法明寺鬼子母神堂 東京都豊島区雑司ヶ谷3-15-20
堂の神額や提灯の鬼の字には、角がありません。
お釈迦様に帰依し、安産・子育ての神とされるようになった鬼子母神を表現しているとされます。
鬼子母神(きしもじん)
鬼子母神は、インドの夜叉神の娘でカリテイモ(訶梨帝母)と呼ばれ、その性質は暴虐で近隣の幼児をとって食らうので人々から恐れ憎まれていました。そこでお釈迦様は、カリテイモの千人の子の内、末の子を隠して子を失う親の悲嘆を味あわせ戒めました。過ちを悟ったカリテイモはお釈迦様に帰依し、安産・子育(こやす)の神とされるようになりました。
帰依した後のカリテイモは、幼児の代わりに人肉の味に似ている「ざくろ」を食べたといわれます。また、吉祥果ともよばれる「ざくろ」の果実は、種子が多く、子宝・安産・子育・子孫繁栄・豊穣に通じるとして鬼子母神の象徴とされるようになりました。
鬼神社
青森県弘前市鬼沢菖蒲沢
鬼神社は通称「おにがみさま」とも呼ばれています。昔、村の人々が干ばつで作物が出来ず苦しんでいると、このことを聞いた鬼が、山(岩木山)から下りてきて一夜にして用水路を作って水を引き助けてくれた、といいます。それに感謝 して村人が、農耕の神として、この鬼を祀り、地名も鬼沢としたといわれます。
また、神社の拝殿正面の鴨居には鎌・鋤・鍬など大きな鉄製の農具も額に納めて奉納されていて、社殿内には千年も前に奉納された鉄製の鍬形も残るといいます。(製鉄や鉄製農具の製造方法などをもたらした鬼神様-外来人ということでしょうか)
鳥居に架かる神額の鬼の字には角がありません。
水を引き干ばつから人々を救ってくれた鬼神への気持ちを表しているものといえましょう。
角のない鬼—鳥居の鬼コ
弘前市-五所川原市を中心に津軽地方では、鬼を鳥居に揚げている神社が40社近くもあるとのことです。鳥居の鬼コには角がありません。角は矯(た)めて(角の先端はまるめて)あります。津軽地方では、鬼は、怖いというより、その神通力は頼りになり、人助けもしてくれる存在だと畏敬されているのです。だから、角のない鬼なのでしょう。
撫牛子(ナイジョウシ)八幡宮
最初に鬼コを鳥居に揚げたともされる、撫牛子(ナイジョウシ)八幡宮(青森県弘前市撫牛子)の青鬼を一例としてご紹介します。
案内板によると・・・・。この鬼は、「撫牛子の鬼コに角コ無エ-」とわらべ歌にも唄われてきた。人々は、鬼コを鳥居にあげて、悪霊・悪疫の防御退散を願い、さらに、鬼の神通力にあやかって強い子を育てたいと祈願した。 と、あります。